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サックスとわたし 

黒田雅之15歳、地元の公立高校に入学し吹奏楽部の部室前を友人と歩いていたときにそれは起こった。

中学からの友人はギターだのベースだのドラムだのという楽器をすでに始めていたが、わたしは少し立ち遅れていた。

よく友人たちと「なんの楽器がやりたいか」という話をしたものだが、これといって強烈にこれがやりたいというものはなかった。

しいて言えばピアノとギターが弾いてみたかったが、どちらも一目見てその操作の複雑さに断念した。

兄がいて、よく洋画のサントラやブラコンなどを聴いていたものだからサックスというものをおぼろげながらに知っていた。

そうだ、やるならあれが良いな。

とは思ったことはあるけれども、実物も見たことはないしおそらく挑戦してみてもどうせ吹けないのであろう、などと漠然とあきらめていた。

新しい学校、新しい環境におかれ心も浮かれていたそのときに唐突にドラマは始まった。

「ねぇねぇ、なんの楽器やりたい?」

顔を見上げると吹奏楽部2年生の女子部員が数人、周りを取り囲んだのである。
いつの間にか吹奏楽部の部室前にそれとは知らず踏み込んでいたのだった。

中学では体育会系の部活を3年間勤しんできたために女子に対する免疫は特にない。

女子生徒と仲良くしゃべっていると次の日にはやれ付き合っているだのなんだのとからかわれる環境で育ったためにこの時点ですでに顔が真っ赤である。

さてこの2年生の女子生徒たち、迷い込んできた1年男子にハイエナのごとく群がったのには理由があった。

男子部員が圧倒的に少ないのである。

吹奏楽部にはティンパニやドラムセット、コンバスにチューバなど、大きくて重いものがどっさりある。

中学3年間でみっちりと吹奏楽部で練習してきた「きちんと吹ける主力部員」は勧誘などしなくても勝手に入ってくる。

されどこういった機材を運ぶのに適した男子部員は入部の予定がなかった。

それで一人でも多く確保しておきたかったのである。

「ねぇねぇ、なんの楽器やりたい?」

高まる鼓動を感じながらその問いにサックスを吹いてみたいとかろうじて答えた。

すぐに準備されるテナーサックス。はじめて見る実物。

首から提げ、指を置く場所を教えてくれる。

1年上の女子生徒が自分の体をべたべた触ってくるのである。

女の子としゃべっただけであいつエロいとかからかわれる学校からきて2週間ほど、いきなりおさわり(おさわられ)パブ経験である。

もう詳しい記憶はない。おそらく「あ・・」とか「う・・」とかしか口にしていなかったであろう。

「吹いてごらん」

吹いてみ、ってコレ(マウスピース)あんた吹いてるやつちゃうんか・・・

ええんか・・ほんまにええんか・・・

そんなんしたら小学校で放課後にこっそり好きな女の子のリコーダー吹いて翌朝先生にこってりシボられた同級生の○君とおんなじちゃうんか・・

いわれるままに吹いてみると、なんと音が出た。

いままで何の楽器をやってみても満足に弾くことはできなかった自分がサックスなら音が最初から出ている。

そのまま指を教えてもらいLowCからHighCまでを習う。

その途端、黄色い声が上がる。

「いやーんめっちゃうまいやーん」「才能あるんちゃうーん」「じょーずぅー」

もうクネクネモード全開である。高2春だから16歳か。本当に女は恐ろしい。

彼女らの瞳にウソのキラキラが浮かんでいる。それが商売っ気丸出しのキラキラであることに気がつけるわけもない。

しかしこちらは本当の初心者、入部してうまくやっていける自信はまったくない。

いつまでも音が出たくらいで喜んでいるわけには行かないことくらいはわかっていた。

それを告げると、

「大丈夫、あたしたちが毎日教えてあげるから!」

もうこれで撃沈ですわ。はい。撃沈されました。

まままま毎日これかー!

毎日おさわり(おさわられ)パブかー!

冷静に考えればそんなわけはないのだが、それほど冷静であればもう少しマシな人生を送れたことであろう。

かくして、黒田雅之15歳まったくの初心者状態での吹奏楽部入部は決定したのであるが、この先は実に艱難辛苦の連続であった。

「大丈夫、あたしたちが毎日教えてあげるから!」

この言葉を信じて入部届けを出したはずであった。
翌日、放課後を待って意気揚々と部室に向かう。

昨日とは打って変わって静かである。
メトロノームとカタカタという音のみが次第に聴こえてきた。

徐々に部室に近づいているというのに、今日はそれしか聴こえない。

部室の前に立つ。

ガラガラとドアを開けるとそこはまったくの無人。

はるか遠くで野球部のカキーンという音がかろうじて聴き取れる、放課後の静寂があるだけであった。

いぶかしがりながら先ほどから聴こえるカタカタ音を頼りに階上へ向かうと、たったひとり3年生女子部員がいた。

手にはスティックを持っており、木の板のようなものに雑巾をかぶせてメトロノームに合わせてカタカタしていた。

音の主はまさにその3年生であった。

「あなた誰? 何か用?」と問われる。

「きのう入部した1年生です。教えてくれるということで来ました。」

その言葉で3年生はすべてを察した様子であった。

こちらはまだ何のことだかわからない。

「誰もいないのですが、何をしたら良いですか?」

こちらからたずねると彼女は言った。

「あの子達はもう来ません。合奏練習が始まる○日までは誰も来ないと思います。」

まったく持って意味がわからなかった。

このあとここで彼女から真相を聞くことになるまでは。

「吹けちゃう子は自動的に入部するから心配してないんだけど重い楽器を運べる男の子が欲しかったのよ。

あなたもう入部したんでしょ?ならもう誰も来ないよ。」

このときやっと、すべてがわかった。

すべては罠だったのである。女というものはこれほどまでに恐ろしいものなのか。

この3年女子も担当はパーカッションで、サックスを教えることはできないという。

倉庫へ連れて行かれ、奥にしまってあった昨日より大きなケースを掘り出してきた。

「男の子だったらコレ重くないでしょ。しばらくコレ使って練習して。

で、本ならあるから自分で読んで勉強してくれる?たぶん合奏練習始まったら一緒にやってもらうから。」

渡されたケースを持つとぐっと重い。開けると昨日より少し大きなサックスが入っていた。

いや、少しじゃない

結構重い。

上のほうは一回巻いてある。なんだこれは。

備品のサックス教則本のありかを教えるとその先輩も行ってしまった。

そういえばさっき、「合奏練習には出てもらうから」と言っていた。なんだそれは。

その日から孤独との戦いが始まるのである。

たった一人部室というか倉庫に篭り、教則本を開く。

そうかバリトンサックスというのかこれは。いちおうサックスなんだ。

黒田雅之のサックス人生はここからスタートであった。

日々が過ぎ行き、それなりに音は出るようになったが譜面は読めないまま。

合奏練習というのが始まる。

やっと人が来た。

2年生がきた。そして1年生も来た。

見事に女子部員だらけ。1年の男子部員は3名だったと思う。

全員が中学校でやってきた様子。

初心者は自分ひとり。。

当然わからないことだらけで隣の人に聞いたりするのだがみんな忙しくて丁寧に教えてくれる余裕のある子はあまりいない。

それになんだか悪いような気がして訊くに訊けない気持ちが勝って、合奏が終わってから自分で勉強するということが多かった。

それでも独学でなんとか譜面が読めるというところまでこぎつけ、次の日の合奏に加わるのだが。。。

どうも自分だけ居心地の悪い音がある。

決まってとある曲のファを吹くとき、気持ちが悪い。

ほかの曲ではそうは思わない。。。

楽譜の読み方は間違っていない。

G Clefである場合、五線の第1間は「ファ」だ。

ファとは、1,2,3,4を押さえた運指で間違いない。

そもそもほかの曲では問題ないのだからチューニングとか言うやつの問題でもないはずだ。やったことないけど。(この時点ではまだ良くわかってはいない)

駄目だ。本では埒が明かない。

意を決して同級生S君に訊く。

「この曲のファ吹いてたらなんかおかしいんやけど、なんでかわからへん?」

「さぁ」

こいつはこの返答に1秒かけなかった。そもそも見せようとした譜面すら見ずに答えた。

おれどんなけ冷遇されてるねん。。

仕方なくまた倉庫に篭りほかの本を探すと世の中にはシャープという記号が存在し問題のファはそれに当たるということ、そもそも違う音であるということがわかった。

わかった。もうこれっきり二度と誰にも頼らん。

あるいは、このときのS君の冷たい対応がその後の人生を決めてしまったかもしれない。

それから、すべての疑問に対して自分で納得するまで調べるということを徹底してやることになった。

ひとりというのは怖いもので、同級生たちは当然身につけているはずだと考え高校2年生が終わるころには一般的な楽理やコード理論、コード進行、アベイラブルスケールについてはマスターしてしまった。

それもだいたいUSTとかModal InterChangeくらいまではやってしまったのだからやりすぎといえばやりすぎである。

頭でわかっていても実技が伴わなければ何の役にもたたんというのはまさにこのころのわたしのことをよく言い表していると思う。

なぜ一般的な楽理からコードプログレッションの勉強をしていたかというとそりゃあアレである。

アルバイトの帰りにウォークマンで聴いたジャズのレコード。

当時はCDを借りてきてカセットテープにダビングということをして聴いていた。

サックスの絵が描いてあるCDを借りてきたらそれがジャズだったのである。

とりわけ、ソニー・ロリンズとブランフォード・マルサリスが大好きになった。

そして、1年生の冬頃には吹奏楽部にはもう行かなくなってしまった。

なぜならそのころにはアルバイト代で自前のテナーサックスを買ってしまったのだから。

かくして、愉しくも前途多難なるわたしのサックス人生は始まったのである。
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category: 書き物

Posted on 2016/11/15 Tue. 19:27  edit  |  tb: --  cm: -- 

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